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覚道健一 posted an update in the group 医療の不確実性を考える会 13 years, 4 months ago
医療は、病気の内容がすべて明らかになってから、治療を開始できるものばかりではありません。
救急医療のように、苦しんでいる患者があれば、何が起こっているかわからないまま対処/治療することは当然普通にあることです。また子供の発熱のように対症的治療をしながら、患者の経過と治療への反応を見ながら、さらに治療が必要な重篤な疾患か、自然に回復する見込みの病気であるかをみることもあります。しかしながら、これらとは異なる次元の、以下の3つの事例を、個人的に体験いたしました。一般社会の皆様、患者としてこれから治療を受けられる皆様は、これらの事例をどのように受け止められるでしょうか?これら事例から学ぶこと、もっと賢明な選択がなかったか考えてみたいと思います。(注:肺小細胞癌、肝細胞癌、膵臓癌は、1年程度で死亡することが予想される病気です。以下の3名の患者はそれぞれの病院で例外的な長期生存者です。)症例1:
30代男性。会社の検診にて胸部異常陰影が指摘され、A大学付属病院へ紹介されました。前縦隔の腫瘤に対し、内視鏡的に生検が行われ、『肺小細胞癌の転移』と診断されました。肺内に腫瘍病変が確認できなかったにもかかわらず、転移病変があることから化学療法と放射線治療が行われました。縦隔の病変は消失し、患者は治療後約20年生存中です。腫瘍の再発はありません。症例2:
30代男性。肝臓に病変が指摘されB病院へ紹介されました。肝臓に対する針生検で、腫瘍性病変は確認されませんでしたが、血管造影にて肝臓癌と診断されたため、化学療法を受けました。肝臓の腫瘤が縮小したため肝部分切除術を受けました。肝臓には癌は認められませんでした。患者は術後約15年生存中で、肝臓その他に再発は見られません。症例3:
50代男性。C民間病院を受診し、画像診断により進行期膵臓癌と診断されました。手術を勧められ、余命6カ月と家族への説明がありました。D専門病院へ紹介され、開腹手術を受けましたが、摘出できなかったため、手術は膵臓には手を触れず、消化管のバイパス造設に終わりました。術後15年健康に再発兆候なく生存中。主治医からは、『膵臓の病変は摘出できなかったので何か分かりません。幸いに癌ではなかったようです。』と説明されています。術後5年程度たった段階で、症例1,2について、病理組織標本が寄せられ、患者から、私の意見(セコンドオピニン)が求められました。私の病理診断は、症例1については胸腺腫(予後の良い腫瘍です)、症例2については、切除された肝臓の組織標本中には腫瘍はない(もともと腫瘍でないか、性質の良い腫瘍であったため、治療で腫瘍が消えた可能性があります)。いずれにしても、このような激しい治療は必要がなかったと考えられます。下された悪性の診断と、行われた治療は、これら3名の患者にとって、その後の人生に大きな影響があったと推定されます。